はじめに
企業のM&A(合併・買収)を検討する際、多くの方が気にするのがデューデリジェンスにかかる費用と期間です。具体的にどんな調査を行うのかわからず、漠然とした不安を抱える担当者も少なくありません。M&Aを成功させるためには、費用と期間をしっかりと理解し、コスト意識とリスク管理を両立することが大切です。
本記事では、一般的な財務・税務DDの費用相場から、小規模M&Aの実例までを交え、費用と期間の目安をわかりやすく解説します。
また、「費用をかけたくない」という中小企業によくある悩みも取り上げ、DDを省略するリスクや、費用を抑えるための工夫についてもご紹介しますぜひ最後までご覧ください。
1. デューデリジェンスの費用相場
デューデリジェンス(以下、DD)の費用は、企業規模や調査範囲によって大きく異なります。以下は、一般的な財務・税務DDにかかる費用相場と特徴を規模別にまとめたものです。
1-1. 小規模案件(数千万~数億円規模のM&A)
- 費用の目安
数十万円~数百万円 - 特徴
対象企業の経理体制が未整備なことが多く、調査に手間がかかる場合があります。ただし、事業規模が小さいため調査範囲自体は限定されることが多く、比較的短期集中で調査を完了させられるケースが多いです。
1-2. 中規模案件(数億~数十億円規模のM&A)
- 費用の目安
数百万円~1,000万円程度 - 特徴
中規模の案件は、税務だけでなく法務・労務といった分野も同時に調査するケースが多くなります。また、部門や事業が複数ある場合、対象範囲が広がり調査期間も長期化する場合があります。
1-3. 大規模案件(数十億~100億円以上のM&A)
- 費用の目安
1,000万円~数千万円以上 - 特徴
大規模案件ではチーム体制も大がかりとなり、期間も数ヶ月~半年に及ぶことがあります。
2. デューデリジェンスの期間と進行スケジュール
デューデリジェンスには、実際どれくらいの期間が必要なのかは気になる点でしょう。小規模案件においては、デューデリジェンスは一般的に以下のようなステップとスケジュールで進められるケースが多いです。
- 準備・目的設定(1〜2週間)
- M&Aの目的や対象企業の概要の把握
- DDの調査範囲の設定
- 必要資料リストの作成、担当者や専門家の手配
- 資料収集・分析(1〜4週間)
- 対象企業の決算書や税務申告書、社内規程などの書類を収集
- 会計ソフトのデータ抽出やヒアリングによる、不備や不整合の調査
- 追加調査・確認作業(1〜2週間)
- さらなる潜在的リスクの洗い出し
- 曖昧な点や疑義がある際の、追加調査、ヒアリング
- 最終報告・交渉(1週間程度)
- 調査結果を元にした報告書の作成
- 買収価格や契約条項への反映
- (必要に応じて)交渉・修正
- 最終契約
小規模M&Aの場合は、上記プロセスを1〜2ヶ月程度で完了するケースが一般的です。中規模以上になると2〜3ヶ月、場合によっては半年以上かかる場合もあります。
3. 小規模M&Aの実例|実施期間のリアルケース
ここでは、弊社がこれまで行ったDDの中から小規模M&Aの調査事例を2つご紹介します。
ケース1:サロン(売上高8億円)
- 目的
買収候補企業の財務健全性を評価し買い手側企業が適切な意思決定を行うため - 財務・税務の主な確認項目:
- 財務諸表の分析(貸借対照表・損益計算書の突合)
- 固定費と季節変動の影響(人件費・設備費などの固定費負担とのバランスを評価)
- 潜在的リスク(簿外債務・過大在庫等)の有無の評価
- 税務項目の調査(過去の申告内容や納税履歴などの調査)
- 期間
約3週間 - 結果
サロン業界の季節変動や固定費を考慮した詳細分析により、買い手が事前にリスクを把握し、買収後の運営戦略を明確化。大きな懸念事項は見当たらず、銀行融資の審査にもプラスに働き、スムーズなクロージングに貢献した。
ケース2:広告配信(売上高5千万円)
- 目的
正確な収益力を分析することで買い手側企業の重要な意思決定をサポートするため - 財務・税務の主な確認項目:
- 財務状況の調査(決算書や月次試算表から資金繰り状況を点検)
- コスト構造の把握(人件費や広告費など変動費・固定費の区分の調査)
- 税務項目の調査(過去の申告内容や納税履歴などの調査)
- 期間
約2週間 - 結果
対象の企業はスタートアップ企業のため、調査資料が限られていたが、その中から必要な情報を的確に抽出。特に源泉徴収の不備や投資負担の見込みを早期に把握し、買収価格や契約条件の再考に役立てた。買い手企業はこれにより、より正確な収益予測を立て、最終的な買収判断を下せた。
このように、あらかじめ調査スコープを絞ることで効率的に調査を進めることができれば2週間ほどで調査が完了するケースもあります。

4. DDを疎かにすると起こるリスク
「そもそも十分な資金がない」「DDに高額な費用をかけたくない」という企業や事業者の方も多いでしょう。しかし、表面上の財務状況が健全に見えても、簿外債務が隠されている可能性があります。DDを安易に省略すると、以下のリスクが高まる恐れがあるため注意が必要です。
- 買収後に簿外債務が発覚するリスク
未払金や役員貸付金、リース債務が買収後に発覚し、想定以上の資金負担を強いられたり、仕入先や取引先からの未処理請求が多数あり、キャッシュフローが悪化するケースがあります。 - 税務リスクの顕在化
源泉徴収の未納や社会保険料の過少申告が判明し、多額の追徴課税が発生したり、消費税の簡易課税制度の適用ミスが発覚し、追加納税義務が生じるケースがあります。
こうしたリスクが後から発覚すると、契約再交渉や破談につながる可能性もあります。そうなった場合は、莫大な損害を被ることにもなりかねません。
DDにしっかりと費用と期間を投じることで、これらのリスクを事前に把握し、契約交渉や買収後の経営計画に反映させることができます。
5. デューデリジェンス費用を抑えるための工夫
デューデリジェンスの調査費用を抑えたいからと闇雲に調査範囲を削減すると、買収後に思わぬ税務リスクや簿外債務が発覚し、結果的に大きな損失につながる可能性があります。
ここでは、適切な調査を実施しながら、適正なコストに抑える方法を紹介します。
- 事前チェックで「問題のある案件」を早期に見極める
本格的なデューデリジェンスに入る前に、税理士へ簡易的な事前調査(初期チェック)を依頼し、重大な税務リスクや簿外債務の可能性を見極めてもらう方法です。この段階で大きな問題が発覚すれば、早い段階で買収の見送りを判断できるため、本格的な調査にかかる費用を無駄にせずに済むでしょう。 - 重要リスク箇所を“重点調査”し、他は最低限に
製造業なら在庫・設備、ITなら開発費・契約形態など、M&A案件によってリスク箇所は異なります。税理士に全面的な網羅調査を依頼するより、最重要リスク領域を重点的に調べてもらう方が効率的です。
“ここだけは徹底的に”という要望を税理士に明確に伝えることで、見落としリスクを最小限に抑えることができるでしょう。 - 依頼範囲や報酬形態を税理士と交渉する
税理士の報酬形態には、時間単位の請求、作業範囲ごとの固定報酬、調査を段階的に進めるステップ方式などがあります。すべてを一度に依頼するのではなく、最初に重要項目を調査し、問題がなければ次の段階へ進むステップ方式で契約すれば、不要な調査を減らし、コストを抑えやすくなるでしょう。
6. まとめ:コストとリスクのバランスを考慮して賢くDDを進めよう
- 費用の目安:
- 小規模M&A:数十万円〜数百万円
- 中規模以上:数百万円〜1,000万円超
- 期間の目安:
- 小規模M&Aなら1〜2ヶ月で完了するケースが多い
- 中規模以上だと数ヶ月〜半年かけることも
M&Aを成功させるには、デューデリジェンスは欠かせないプロセスです。しかし、費用や調査期間などの面で不安を抱える企業が多いのが現状です。とはいえ、DDを省略するリスクは非常に大きく、後々の追徴税や債務負担、契約破談などにつながる可能性があります。
買い手・売り手双方にとって、DDでリスクを事前に把握し、適正価格でスムーズな取引を行うことが大切です。費用対効果を最大化するためにも、調査範囲を最適化し、専門家のサポートを賢く活用してください。